「ある所に、一人の偉大な悪魔がいました」
「偉大な悪魔は強く雄々しく、そしてとても優しい心の持ち主でした」
「誰からも尊敬される彼は、ある日『人間』という生き物に、遥か遠くの人間の世界に呼ばれてしまいます」
「気付けば『光の陣』の中に佇んでいた彼に、人間は懇願しました」
『私に自分の子供を救う力を下さい』
「偉大な悪魔は、その子供を思う心に胸を打たれます」
「彼は言いました」
『契約を結べば、私もお前も無事では済まない。それでも良いのか?』
『構わない。それで娘を救えるのなら』
「人間はそう言って、悪魔と契約を結びました」
「契約の代償はお互いの命と知ってなお、人間は力を願ったのです」
「そして、人間は偉大な悪魔の力を借りて娘の元へと走ります」
「しかし、他の人間達が彼らの行く手を阻みます」
『奴は悪魔に取り憑かれたのだ。悪魔に魂を売ったのだ。殺せ、殺せ!』
「人間達は口々に叫びました」
「それでも彼らは、止まろうとはしませんでした」
「自分の最愛の娘を救うために」
「自分の心を打った強き心を持つ者を支えるために」
「そして遂に、彼らは女の子の元へと辿り着きます」
「しかし、世界はいつだって非情でした」
「人間の娘は、既に他の人間達の手によって殺されてしまっていたのです」
「人間達は言いました」
『悪魔に魂を売った者の娘は魔女だ。殺してやった、殺してやった』
「数多の苦境を乗り越えて来た人間と悪魔は、既に限界でした」
「契約の代償として削られていく命」
「偉大な悪魔は思いました」
「せめて自分の心を打った彼だけでも救わねば、と」
「偉大な悪魔は契約の代償を全て一人で背負うと、静かな夜の闇に消えていきました」
「人間の命を守るために」
「残された人間は力を失い、すぐに捕まってしまいました」
「そして、他の人間達の手によって殺されてしまいます」
「人間は死の直前に、こう言いました」
『あの悪魔、肝心な時に役に立たないじゃないか』
『結局何も救えなかったじゃないか』
『呪ってやる』
『呪ってやる、呪ってやる』
『悪魔め、悪魔め、悪魔め…』
「人間の世界で一生を終えた悪魔は、誰よりも優しかった偉大な悪魔は、誰にも理解されずに死んでしまいました」
「彼はただ、命を懸けて願いを聞き届けただけだというのに…」
第2話「神話 mythology」
・原作:TeraByte
・編集:十三宮顕
ティス レヴィフェゴール(Thinis)
「うー…」
ここは、魔界のとある図書館。角族(Curno)の少年のティス レヴィフェゴールは、いつものように本を読んでいた。毎日のようにここに通い、読んでいるのはお気に入りの神話の本。伝説上の生き物である「人間」が出てくる絵本だ。
ティス
「人間って怖いな。同じ生き物なのに、お互いを殺しちゃうなんて…」
ティスは本を閉じて天井に顔を向けると、読んだ本の中身を頭の中に思い浮かべる。
ティス
「うーうー…」
しばらく座ったまま、足をパタパタと振っていたが、ふと小さくつぶやいた。
ティス
「…ホントにいたのかな。人間って。もしホントなら、ホントにこんな自分勝手で、怖い生き物なのかな…」
しばらく『うーうー』と唸っていたが、割とすぐにティスは席を立った。本を元にあった場所へ丁寧に戻すと、図書館を出るべく移動を始めた。
ティス
「シャンドラのとこに行って聞いてみよう」
スート アザトース(Suit Azathoth)
「…あ、ティス君…もう帰るの?」
ティス
「スートさん。うん、これからシャンドラのとこに行こうと思って」
スート
「…そう…また聞きたい事でもできたの?」
ティスより年上の髪族(Farrell)、スート アザトースは無表情ながらも少し愉快そうだ。
ティス
「あのね、スートさん。人間って、本当にいるの?」
スート
「…また人間のお話を読んでいたの?…ティス君は本当にそのお話が好きだね」
ティス
「街の皆はお伽話だって言ってるけど、お伽話ならなんでこんなに人間の本が多いの?なんで書いてある事がちょっとずつ違うの?」
ティスの言葉に、スートは困った笑みを浮かべた。
スート
「…お伽話だからだよ、ティス君…本当の事なら、一つの真実しか描く事はできないから」
ティス
「じゃあ、やっぱり人間はいないの?この本は嘘なの?」
スート
「…そうとも限らない。…その本が嘘か真か、判断するのは読んだ者自身だから…読んだ者がいると思うのなら、本当にいるかもね」
ティス
「うー…。よく分かんないよ」
スート
「…それでいい…絶対に考えなきゃいけない事は、大きくなってから考えればいい…今は、好きな事を好きなだけ考えて」
ティス
「好きな事を、好きなだけ?」
スート
「…そう、それはいつか、必ずティス君の役に立ってくれる」
ティス
「うー、分かんないけど、分かった」
曖昧な返事にスートは笑ってティスの頭を撫でた。
スート
「…そういえば、シャンドラの所に行くんじゃなかった?」
ティス
「あ、そうだった。じゃあ行ってくるね。スートさん」
スート
「…行ってらっしゃい」
ティスはスートに手を振ると、図書館を後にした。目指すは通りを抜けた先にある一軒家。小さい頃から何かと自分を気にかけてくれている角族、シャンドラ博士の家だ。いつものパン屋さんを通り過ぎ、魚屋さんを通り過ぎ、竜肉屋さんを通り過ぎ。小さな明りのともる一軒家。見慣れた古ぼけた表札には、いつもの見慣れた名前。「シャンドラ エウリブランケ」。
ティス
「シャンドラー。いるー?」
コンコンと扉を軽くたたくと、中から澄んだ声の返事が来た。
シャンドラ エウリブランケ(Chandra)
「ティス?ちょっと待ってちょうだい」
中からガッチャンガッチャンというけたたましい音が聞こえると、ドアがゆっくりと開いた。
シャンドラ
「いらっしゃい、ティス。また何か聞きに来たの?」
眼鏡に白衣に、ギュッとサイドにまとめた髪型。後ろに見えるゴチャゴチャの変な機械。ティスにとってはもう見慣れたその光景は、確かに自分が慕っているシャンドラの自宅のいつもだった。
ティス
「うん、今日読んだ本の事なんだけど」
シャンドラ
「いいわよ。とりあえず入りなさい。ジュース入れてあげるから」
ティス
「わーい」
ティスは中に入ると、機械に大半の面積を占領されているソファに座った。シャンドラが昔大学で「魔導機械学」を専攻していた、とは聞いているものの、ティスにはあまり興味がなかった。同年代の友達はペタペタ触って怒られていたりしたが、ティスにとっては機械よりも、本の知識について色々質問する事が常だった。機械に興味を示さない事に、シャンドラは複雑な表情を浮かべていたが、それであってのティスだと本人は納得しているようだ。自分の横で、チカチカと変な光を放っている機械には眼もくれず、ティスは大人しくシャンドラが来るのを待っていた。
シャンドラ
「おっ待たせー。ブドゥアジュースでいいわよね?」
ティス
「ありがとう。シャンドラ」
自分の眼の前に置かれた、紫色のジュースをこくりと飲みながら、ティスは早速聞きたくて聞きたくてしょうがない事を、シャンドラにぶつけた。
ティス
「ねぇねぇ、シャンドラ。人間って、ホントにいると思う?」
シャンドラ
「人間、ね。今日読んだのは、人間の出てくるお話なのかしら?」
ティス
「うん。ゼフォン(Zephon)おじいちゃんとスートさんは『いるかいないかは読んだ者が決める』って言ってたんだけど、シャンドラはどうなのかなって」
シャンドラは湯気の立つコーヒーを片手に腕を組むと、眼を細めて一口すすった。
シャンドラ
「ゼフォンさんらしい解答ね。子供に難しい事言っちゃって」
ティス
「うん。難しくて分かんなかったんだ。だからシャンドラに聞いてみようかなって」
シャンドラ
「ティスは本を読んで、どう思ったの?」
ジュースを飲みながら、ティスは思案顔になる。
ティス
「んーと。人間って怖いなって思った」
シャンドラ
「怖い?」
ティス
「うん。本に書いてあったよ。人間は自分勝手で、何か嫌な事が起こるとすぐ他の人間のせいにして、それができなければボク達悪魔のせいにしちゃうんだって」
シャンドラ
「うーん、そうねぇ。確かにほとんどの神話や伝説では、人間は身勝手で自分の事しか考えてない、愚かな生き物として描かれてるわね」
ティス
「うん。ボクが今まで読んだ本でも、そう書かれてた」
シャンドラ
「じゃあ、ティスはどうだったらいいなって思うの?」
ティス
「ふぇ?」
シャンドラ
「もしも人間という生き物が存在していたとして、確かに読んだ本の内容通りの生き物だったのなら、それはとても怖い事だわ。ティスは、そうであって欲しい?」
ティス
「うー…、そんなの嫌だよ。でも、本に書いてあるんだから、そうなんじゃないの?」
ティスの困惑した表情に、シャンドラは困ったように笑う。
シャンドラ
「ティス。ゼフォンさんが言ったのでしょう?読んだ者が決める事だって」
ティス
「でもそれって、いるかいないかだけだよ?」
シャンドラ
「ふふ、いい事教えてあげるわ。ティス。本のいい所っていうのはね、読んだ者が好きなように内容を受け取れる所なのよ。時として本は、本を書いた者の予想と思惑を越えて、読み手の想像力で作品はどこまでも進化していけるの」
ティス
「進化…?」
シャンドラ
「百の悪魔がいれば、百通りの読み手の見解がある。見解の数だけ進化の可能性が存在する。ティスは今日、一冊の本を進化させようとしているの」
ティス
「あはは、なんだかゲームみたいだね」
シャンドラ
「そうよー。ティスは、どんな風にその本を進化させたい?」
シャンドラの朗らかな問いに、ティスは天井を見上げて思案する。
ティス
「うーん…。ボクは、人間はいて欲しい、かも」
シャンドラ
「あら、どうして?怖いんじゃなかったの?」
ティス
「怖いよ。でも、シャンドラ。ボクは思うんだ。あの本の通りだったら、あれはずっとずっと昔の出来事なんだ。だからきっと、人間も進化して、あんな風に誰かのせいにするだけの怖い生き物じゃなくなってると思うんだ」
シャンドラ
「素敵な考えね」
ティス
「だからね、人間って、今はきっと素敵な生き物になってると思うんだ。誰かのせいにして争う事は怖い事なんだって、他のどの生き物よりも知ってると思うから」
シャンドラ
「でも、人間は怖いんでしょう?」
ティス
「…うん。きっと、眼の前に現れたりしたらとても怖いと思う。だって、ボクは人間について本の中の知識しかないもの。ホントはどんな生き物なのか分かんないんだから、とっても怖いと思うんだ」
シャンドラ
「知らない事は怖い事、ね。そんな風に考えられるなんて、ティスは本当にお利口さんね」
シャンドラの率直な褒め言葉に、ティスは頬を赤く染める。
ティス
「あうう、頭撫でないでよー」
シャンドラ
「ふふ…。あ、そうだ。ティス、いい事教えてあげるわ」
ティス
「いい事?」
何かを思い付いたような顔をしたシャンドラに、頭上にハテナマークを浮かべてティスは首をひねった。
シャンドラ
「ええ、ティスは『禁断の祠』を知ってるかしら?」
ティス
「え、うん。知ってるけど」
「禁断の祠」。それは、遥か昔に大悪魔達が作ったと言われる、南の森の傍に位置している祠の事だ。しかし、禁断のとはいうものの、昔からの名称がそのまま定着してしまっただけであって、特に入ってはいけないという決まりはない。街の古い悪魔は「入れば太古の呪いがかかるぞ~」なんて言って子供達を脅かしていたりもするが、所詮はその程度である。普段ティスが通っている学校でも、高学年になってからの遠足で、その祠に入って中を見学するという催し物も存在する。
ティス
「でも、あそこに入ると呪われちゃうってゼフォンおじいちゃんが」
シャンドラ
「ゼフォンさん…。大丈夫よ、ティス。呪われるっていうのは、昔からの言い伝えみたいなもので、デマだから」
ティス
「え、ゼフォンおじいちゃん…嘘ついてたの?」
あからさまにショックを受けたという様子のティスに、シャンドラは慌ててフォローに入る。
シャンドラ
「
ティス
「どうって…怖いなって」
シャンドラ
「そうね。誰だって呪われるなんて言われれば、怖くてたまらなくなるわ。でも、それをデマだと知ることが、ティスの成長につながるの」
ティス
「成長に?」
シャンドラ
「ええ。何かを知る事で、悪魔は大きくなっていくの。いい事も悪い事も知って、そして悪い事をきちんと選別していけるようになる事が、成長するって事なのよ」
ティス
「うーん…」
シャンドラ
「今は少し難しいかも知れないけど、もうちょっとすれば分かるようになるわ」
ティス
「そうなの?」
シャンドラ
「そうよ。だから、ゼフォンさんの言った事を嘘だなんて言っちゃダメよ?」
ティス
「うん、分かったよ」
シャンドラ
「ふふ。じゃあティス。その禁断の祠に何があるのか、知りたくはない?」
シャンドラの言葉に、ティスは大きく首を縦に振った。
ティス
「うん、教えて教えて!」
シャンドラ
「ふふ。じゃあ、しっかり聞きなさい。禁断の祠の奥には、古い祭壇があるの。その上には、不思議な石が祀られているのよ」
ティス
「石?ボクの首飾りみたいな?」
シャンドラ
「それよりももっと大きな石よ。それでね、その祭壇の周りには、それはそれは不思議な壁画が描かれているの」
ティス
「どんなのなの?」
シャンドラ
「そこにはね。私達悪魔と、悪魔とよく似た生き物が一緒に描かれているのよ」
ティス
「えっ…?」
ティスは目を丸くしてシャンドラを見た。悪戯が成功したかのような顔のシャンドラに、ティスは徐々に目を輝かせていく。
ティス
「それって、人間なの?」
シャンドラ
「どうかしらね。確かめてみたら?」
ティス
「えっ、でも…」
シャンドラ
「まだ日も落ちてないし、行って戻って来るだけの時間もある。見て来たいんじゃないの?」
ティス
「でも、ボク一人じゃ…シャンドラは一緒に行ってくれないの?」
シャンドラ
「うーん、ちょっとまとめとかなきゃならない資料があるのよ。勇気を出して、一人で行ってみなさい、ティス。男の子でしょ?」
シャンドラの言葉に、ティスは数瞬迷う素振りを見せるが、やがて首をゆっくりと縦に振った。
ティス
「分かった。行ってみるよ」
シャンドラ
「偉いわ、ティス。じゃあ、これを持って行きなさい。祠の中は薄暗いから、足元に気を付けるのよ」
シャンドラは小さなペンライトを手渡すと、ティスの頭を撫でた。
シャンドラ
「…でもやっぱり少し不安だから、後からこっそり着いて行こうかしら?資料のまとめはさっさと終わらせればいいんだし」
ティス
「もう…じゃあ、行ってくるね」
シャンドラ
「ええ、行ってらっしゃいな」
クシャクシャと頭を撫でられて、ティスは少し気恥ずかしくなりながら、シャンドラの家を出る。
いつも学校帰りに寄っているおもちゃ屋さんを通り過ぎ、時々お世話になっている本屋さんを通り過ぎ、街の南側の出口に着いた。ここを出て少し歩くと、南の森に到着する。
そこの入り口のすぐ傍にあるのが、今や遠足の名所となっている「禁断の祠」だった。入り口には「中は暗いので足元に気を付けて下さい」と書いた立札が置いてあった。ティスは少し不安な表情を浮かべると、オドオドしながら中へと入って行った。
ティス
「うわぁー…」
中に入ったティスの目には、祠の中に数々の調度品が、透明なケースに収められて並べられていた。捻じ曲がった木の棒、竜の形をしたペンダント、何かの牙、焦げた木の実。おそらくこの森で採取された物なのだろう。今現在、禁断の祠は名前をそのままに、南の森で採取された様々な物を、陳列して置く場所になっていた。もちろん入るのに料金など発生せず、誰でも気軽に立ち寄れる憩いの場なのだ。しかし、日没も近くなっているからか、祠の中にはティス以外には誰もいなかった。ティスは陳列されている品々を眺めながら、ゆっくりと祠の奥に向かって行く。
ティス
「えっと、これがシャンドラが言ってた祭壇かな」
少し歩くと、割とすぐに奥の祭壇に到着した。祭壇の上には、ティスが今まで見た事がないような石が鎮座していた。そこにあったのは時折淡い青の光を放っている、黒い石だった。それは薄暗い祠の中で静かに輝き、ティスの眼に幻想的に映った。暫くティスはその不思議な石に見入っていたが、やがて視線をその周囲の壁に移していった。
ティス
「…シャンドラの言ってた通りだ。悪魔と別の生き物が、一緒に壁に描かれてる」
ティスは手に持ったペンライトを、視線に合わせて移動させていく。
そこには、何とも不思議な光景が壁に描かれていた。丸い円の中に立つ、角を生やした悪魔。その傍に跪く、悪魔に似た生き物。祈るように手を合わせているその姿は、悪魔に何かを願っているように見える。
ティス
「これ、人間だよね…」
壁画は横に続いていく。自分達悪魔に酷似した姿の生き物、人間は、剣を手にして巨大な怪物に立ち向かっている。そして悪魔は、その人間の後ろで、お互いの背中を守るかのように佇んでいた。ティスは眉をひそめた。この光景は、自分が見る限りでは悪魔と人間が協力し合って、怪物に立ち向かっているようにしか見えない。今日見たばかりの絵本では、人間が悪魔を呪っていたというのに。
まだ壁画は続いた。剣を持つ人間は悪魔と手を取り合い、その頭上に何かのマークが描かれている。これは、契約をしているのだろうか?そう思った途端に、ティスは急にこの先の壁画を見る事が怖くなった。よく思い返してみれば、今日読んだばかりの本でも、最初は人間も悪魔と協力し合っていたじゃないか。となれば、この次の絵は…。
ティス
「…やっぱり、人間は悪魔のせいにするのかな。失敗したら、何かのせいにするのかな」
ティスは悲しげにうつむいてしまった。でも、せっかくここまで来たんだ。せめて壁画は最後まで見て行こう。そう考えると、ティスはペンライトを次の壁画に向けようとした。
ティス
「…え?」
その時、周囲に異変が起こった。先程までペンライトで照らされていた祠の中が、突如として全く別の光に照らし出されたのだ。その光源が自分の足元からだと分かり、ティスはそちらに視線を移した。光り輝く自分の足元にあったのは、奇怪な文様を描いた円陣だった。
ティス
「何…?何コレ…!」
思いもかけない出来事に、ティスはペンライトを落として尻餅をつく。なおも光は強くなり、見る見るうちにティスは泣き出しそうになる。
ティス
「誰か、誰か助けて…っ!」
助けを求めるも、祠には今ティス以外にいない。ガクガクと膝が震えるが、何とか祭壇にしがみついて立ち上がる事に成功した。何とか祠から逃げなければ。涙目でティスがそう考えると、誰もいないはずの祠に声が聞こえた気がした。
ティス
「助けて…助けてよ、シャンドラーッ!」
まばゆい光が祠を満たすと、その後にはペンライトがコロコロと祠の床に転がっていた。それに入れ替わるように、入り口から足音が聞こえてきた。
シャンドラ
「ティス、何があったの?ティス!」
ティスの様子を見に来たシャンドラが、祠の奥にやって来た。そして床に転がるペンライトを拾い上げると、シャンドラの眼が見開かれる。
シャンドラ
「ティス…?どこにいるの!ティス!」
悲鳴のようなシャンドラの声は、誰もいない祠に虚しく響いた。必死に探すも、ティスの姿は見当たらない。祭壇に祭られていた、一つの石と共に、その姿を消してしまった…。
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